漁師と木の精
沖縄ツアーなどで多くの観光客が訪れる沖縄ですが、その民話はあまり知られていません。
今日はひとつ、その中で怪奇物語といわれているものを紹介します。
あるところに夜釣りの好きな鮫どんという男がいました。
ある夜、村人に釣り場をおしえずひとりで釣りをする鮫どんの元に、誰かがやってきて声をかけました。
「わたしは魚をとることを知らないのでね。
音に聞こえた漁上手の鮫どんの夜釣りをみせてもらいにきたのですよ」
そのくせ、その人も釣りの支度をしていました。
「教えていただきながらわたしも糸をたれて、とれた魚は鮫どんに持って帰ってもらう。
それではいかがなものでしょう」
鮫どんは、相手が小さくて弱そうにみえる上に、漁上手と自分を賞めるので警戒心をときました。
少年か老人か、年齢のわからない小柄な男は、邪気の無い笑顔をみせて、腰にまきつけていた抱ちびんをはずして鮫どんに渡しました。
鮫どんは大好きな泡盛をみやげにもらって、いっそううれしくなりました。
いったいどこまでこのおれさまのことが聞こえているのだろう。
おれの酒好きまで知っているとは……。
「お前はどこからきたんだ。何ていう名だ。この泡盛はうまいねえ」
こくこくともらった抱ちびんの泡盛を飲みながら、鮫どんはいい気分になりました。
「ま、おれのすることをよくみておればわかるさ。助けはしても、邪魔をするなよ」
なにを言っても、小柄な男はきれいな笑顔でうなずいています。
そして、竿のうちかたも糸のひきかたも鮫どんが一度教えれば、たちまちに覚えてしまい、鮫どんと同じほどに魚をとりました。
鮫どんは二人分の魚をになって家に帰りました。
男の漁してきたぴちぴちの魚を桶にいれ、妻女が頭にのせて売りにゆくのです。
朝早くから、いきのいい魚を売り歩く女たちの明るい声が、そしてどっしりとしたその腰つきが、漁師の妻たちの誇りなのです。